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震度0 横山秀夫 

2008年05月03日 ()
読んだ本。 * 本・雑誌
舞台は、とある地方警察
神戸を大震災が襲った日、周囲からの信頼も厚い警務課長が姿を消した。

彼を心配する者、保身に走る者、組織を守ろうとする者、天下り先を確保しようとする者、そして、傍観者として自体を楽しむ者。警察署の幹部達が、それぞれも思惑からてんでバラバラな行動をとり始め、組織が軋みはじめる。
大震災の悲惨な状況を尻目に、繰り広げられる権力闘争。攻守はめまぐるしく入れ替わり、争いはますますヒートアップし、一向に警務課長の行方の知れないまま、周辺情報だけが溢れていく。
果たして、警務課長はどこへ消えたのか・・

閉じた社会での歪んだ人間関係、立場の異なる者同士の疑心暗鬼と反目。
やがて、秘めてきた過去の影が姿をあらわし、物語は進展する。

震度0 (朝日文庫 よ 15-1) (朝日文庫 よ 15-1)

震災という非常事態そっちのけで、権力闘争を始める姿が、組織の論理や自己のエゴで争う醜さを際立たせてくれている。
--以下ネタバレあり--

階級社会、官舎という閉じた人間関係、キャリア・準キャリア・叩き上げという立場の違いが組織の歪みを生み、醜い争いを続ける登場人物たちの姿からは、警察という組織の抱える歪みと、それによって変わってしまった人の心の荒みようが伝わってきて、痛々しい。
個人の思いなどそっちのけで、組織の中の男社会の論理に染まった行動が、人の心を踏みにじっていく。

そして、どうしようもなくズルズルと墜ちて、行き着くところまで行き着いた末に、ようやく己の思いに立ち返る幹部たち(の一部)。

大震災と同時に襲った、この地方警察の屋台骨を揺るがす事態にも、どうにか向き合って立て直していける。そういう希望を持たせるラストで、ふっと心が軽くなった。


・・・でも、キャリア組の二人はダメかな? あれは。ブータロウ君も。
まあ、中にはそういう人もいるということで?

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[2008.05.03(Sat) 01:58] ミステリTrackback(0) | Comments(0) 見る▼
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螺鈿迷宮 

2008年03月27日 ()
読んだ本。 * 本・雑誌
螺鈿迷宮 海堂尊

これまで、『チーム・バチスタ〜』関連の作品で取り上げられながら登場する機会がなかった、桜宮市の「死」を司る桜宮病院に潜入することになった、留年医学生”ラッキーペガサス”天馬大吉が遭遇する、不幸の嵐の物語。

『ジェネラル・ルージュの凱旋』のラストで、姫宮が桜宮病院に潜入調査をすることが触れられていたけれど、今作はその物語。時期的には、『ジェネラル〜』の後だけれど、実際の出版は、今作の方が先。一連の作品が宝島社の出版で、書店でもそちらばかり固めて置かれていたので、読むのが遅れてしまった。

舞台となる桜宮病院の設定が、なかなか面白い。終末医療現場なのだけれど、寺、老人介護センター、末期がんのホスピスを兼ねた施設で、なおかつ、患者を医療スタッフとして雇用させることで、「誰かの役に立つ」という実感を引き出して患者を寝たきりにさせないという、ユニークなシステムを持っている。

しかし、『バチスタ〜』のシリーズでは、なにか後ろ暗い感じがある病院として書かれていたこの病院。ここに出かけたきり行方不明になった男の捜索を兼ね、厚生省の息の掛かったアルバイトで病院にボランティアとして潜入調査をすることになった天馬大吉君。名前と裏腹に不幸が連続する嵐「アンラッキートルネード」に巻き込まれる事が得意な、不幸な若者。ここに、トラブルの連鎖を引き起こす「ミス・ドミノ」こと姫宮が絡んでくるのだから、無事で済むはずがない・・・

螺鈿迷宮


なんともご愁傷さま。
--以下ネタバレあり--

ユニークな舞台を使って終末医療という重いテーマをしっかり書いているし、物語も面白い。
大吉の不幸っぷりや、彼を取り巻く葉子をはじめとする人たち、病院の人々も魅力的なんだけれど、何だか少し物足りない。
白鳥も登場しているのだけれど、せっかくのロジカルモンスターも、今作ではあまり本領を発揮できていない感じ。

・・・そうか、この部分が不満なのかな? 確かに白鳥はムチャクチャをやってくれていて楽しいのだけれど、物事に鋭く切り込んでいく、調査官としてのロジカルモンスターの部分が弱いので、少し物足りない。
今作は、調査官としては彼女がメインだから仕方ないのだろうけれども。
あとは、桜宮病院がいろいろな要素を持ちすぎて、すこし雑多な感じがしているのも、個人的にすっきりしない感じがしている原因かもしれない。

そうそう、これまでの作品で姫宮が「大きい」のがどう大きいか判らないと、以前の作品を読んだときに書いたのだけれど、大吉の評価では「スタイルはいい」らしいので、横に大きいのではないらしい。なんとなくイメージが固まってきたような、そうでもないような。

面白さという点では、バチスタ関連のほかの作品には少し劣るけれど、バチスタ世界の物語の一つとして、ファンは読んでおいて良い作品。

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[2008.03.27(Thu) 19:19] ミステリTrackback(0) | Comments(0) 見る▼
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ジーン・ワルツ 

2008年03月21日 ()
読んだ本。 * 本・雑誌
まさに「最強の魔女」。

人工授精のエキスパートである曾根崎理恵は、廃業を控えた産婦人科医院「マリア・クリニック」の最後の5人の患者を手がける。
自然妊娠あり、人工授精ありの彼女らに降りかかる、妊娠・出産に関わる「意地悪な現実」。
そして、理恵が違法な代理母出産に手を染めているという噂が流れる。

出産という人生最大級のイベントに臨む5人の妊婦たちはどうなるのか。理恵が目指すものは、一体何なのか。彼女が隠しているものは、一体何なのか。

最近の海堂尊の作品は、「医療エンターテイメント」だったけれど、今作はバチスタ以来久しぶりに「医療ミステリ」という感じの作品になっている。そのため、隠された仕掛けも沢山。読みながら、あれはそういうことだったのか、というのに気がついて、後から読み返してみるのも楽しい。
もちろん、海堂尊の作品なので単なるミステリではなく、医療の現状を提示し、それの問題を社会に向けて問いかけている点も見逃せない。
産院の閉鎖が、社会的に問題になっているのは、確かな事実。

子どもと医療を軽視する社会に未来なんてない。


全く、その通りじゃないだろうか。

ジーン・ワルツ
・・Amazonの画像、間に合ってないなぁ。

なお、バチスタシリーズと同じ物語世界だけれど、理恵が桜宮市出身で「真弓」という同窓生が小児科で働いているという以上の関わりは無い。(副島真弓?)
--以下ネタバレあり--

さて、この作品は、最終的に主人公が目指している医療は素晴らしくて、共感できるのだけれど、保険として取った行動に問題がアリアリ。
もちろん「本当に理恵が言葉通りに行動していたのか」という疑問は残る(ただのハッタリの可能性があるし、多少工夫をしないと、彼女が言ったとおりのことは出来ない)のだけれど、仮に本当にやっていたとすると、「あんたに患者のためとか言う資格があるのか?」と問いたくなる。

本当にやっていたとすると、その二面性からしても、まさに「魔女」。男たちは、良いように踊らされて、手も足も出ていない感じ。それでも、同じ理想を持って、自分を躍らせてくれるのであれば、それはそれで満足の行く行動なんだろう。『三十六計〜』じゃないけれど、騙されるのも、踊らされるのも、時には心地よいもの。

主人公の二面性をどう評価するかはともかく、妊娠・出産に関わる厳しい現実と、医療現場の問題、生命の誕生に関わる人の想いの強さと美しさを書いた良作。

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[2008.03.21(Fri) 19:13] ミステリTrackback(0) | Comments(0) 見る▼
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模倣犯 

2008年03月12日 ()
読んだ本。 * 本・雑誌
模倣犯 宮部みゆき

予定していたことを全て放り出して、一気に読みきった。
本を読んでいて嬉しいのは、やっぱりこういうとき。
改めて、宮部みゆきのすごさを実感。

公園で発見された女性の右腕と、ハンドバッグ。
当然、ハンドバックは女性のものだと思われていたが、テレビ局に「犯人」を名乗る男からの電話が入る。右腕は、その女性のものではない、と。
そして、「犯人」はハンドバッグの持ち主の女性の祖父にも接触し、周囲を掻き回して行く。

事件に巻き込まれていく人たちの心理描写、それぞれの立場の相似、対比、そのコントラスト。巧みな描写と、以外な事態の展開に引き込まれて、夢中で読ませてもらった。もちろん、私は大作好きだし、それなりに読書慣れして読むのは早目だけれど、それにしても文庫を積み上げて9cm近い厚さの作品を、飽きさせずどんどん読ませてしまうのはすごい。

模倣犯1 (新潮文庫)
模倣犯〈5〉 (新潮文庫)
5冊並べると、さすがに画像が多くてうるさい感じなので、ちょっと自重。

未読の人のため、作品の内容については、一切触れないことにする。
--以下ネタバレあり--

それなりに推測できる内容もあり、それを差し置いても、著者の巧みなストーリーテリングの技の冴えに引き込まれて楽しめると思うけれど、先にどう展開していくか知らないのがベストには違いない。

正直、多少なりとも本好きで、この本を読んでいないのは損をしていると思う。
本嫌いで、読むのが遅い人は、この厚さに退いてしまうかもしれないけれど、それはある意味幸運なのかもしれない。本を読むのが遅ければ、それだけ長く初読時の感覚を味わうことができるのだから。読んで損は無いと、自信を持って推せる作品。

ああ、もっと早く読んでおくんだった。

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[2008.03.12(Wed) 19:34] ミステリTrackback(0) | Comments(0) 見る▼
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誰か 

2008年02月04日 ()
読んだ本。 * 本・雑誌
誰か 宮部みゆき

自転車に”轢き逃げ”された運転手の死を追った「私」は、事件を追うに連れて、関係者の人生の裏側に踏み込んでいく。

宮部みゆき作品を読むのは久しぶり。以前のエントリで触れたように、古い作品は結構読んでいたのだけれど、最近はすごくメジャーになってしまったので、ちょっと避けている感があった。
この作品が文庫化されたのを機に、久しぶりに宮部作品を読んでみて、やっぱり満足。

主人公の柔らかな中にある、芯の強さ。関係者の平穏な生活の中に隠された、暗い過去。平凡さを装った人の心の中に隠されている醜さ。無神経な悪意。そして、純粋で守りたいもの。
ストーリーを通して、ちょっとしたエピソードを積み重ねることで、人の外面が、そしてにじみ出る内面が巧みに描かれていく様子はさすが。

誰か (文春文庫 み 17-6)
--以下ネタバレあり--

決して強く無く、自身も幸せを失うことに怯えながら、人の不幸に接して、一人独白する主人公の言葉が印象的だった。

でもあなたは幸せになれる。何かに、誰かに追いかけられて、キャッと叫んで机の下に隠れても、いつかはそこから出なくてはならない。出て行けば、世界はまだそこにあるのだ。

この言葉は、相手に声として届くことは無いのだけれども。

人生の素晴らしさを高らかに、前向きに謳い上げる力強さはない。
それでも、後ろ向きな諦めではなく、静かに人の世の理不尽さを受け入れ、その上で明るい未来を信じて少しずつ前にすすむ強さ。そういう強さが、宮部みゆきの世界には確かにある。

悲しみを受け入れ、それを知っているからこそ、目の前の幸せを大切に慈しみ守ろうとする、少し臆病な主人公の家庭の、穏やかな眩しさがなんとも印象的な一作。
久しぶりに、宮部みゆきの作品を読み進めてみようという気になった。

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[2008.02.04(Mon) 22:55] ミステリTrackback(0) | Comments(0) 見る▼
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