科学の記事
ワープする宇宙 リサ・ランドール
我々が暮らしている世界が4次元以上の世界の一部である可能性を示す理論の旗手である著者が、その理論と、背景となる物理学の世界を語った本。
私はテレビを見ないので知らなかったけれど、NHKの「未来への提言」にも出演していたので、知っている人も多いはず。
さて、『トンデモ仮説の世界』では
じゃあ、どうしてリサ・ランドールさんだけが注目されるんですか?
「君のいうとおり、ルックスのいい女性だからだろうな」
なんて事を書かれている著者。どんな出来かな・・・と恐る恐る読んでみたけれど・・素晴らしい。
決して簡単な内容ではないのに、わかりやすい言葉で上手くまとめていて、読みやすい。さらに、各章の冒頭のユニークな挿話が、判りやすさと読みやすさに貢献している。
これだけのものを本当に忙しそうな本人が書いたのか?と疑問に思いながら呼んだのだけれど、数年掛けて書いた作品だというから納得。
一流の学者だからといって、著作の才能があるとは限らないのだけれど、中には『生物と無生物のあいだ』『プリオン説は本当か』の福岡さんといい、リサ・ランドールといい、研究と著作の両方の才能を持つ人がいてくれて、科学好きとしてはとても嬉しい。

本の内容は、突き詰めれば「我々の住む世界は5次元世界である可能性がある」ということに過ぎないのだけれど、その背景となる理論はなかなか面白い。最新の素粒子物理学のトピックや、多次元世界の話をこれだけ判りやすく書いているというのはたいしたものだと思う。
ところで、この本の内容で注目されるのは、理論から導かれる現象が、そろそろ実験で測定されるかもしれない、ということ。
現在建設中のLHC(大型ハドロン衝突加速器)を使って、数Tevのエネルギーを与えた衝突実験で、著者の仮説を裏付けるデータが得られるのでは、と期待されている。
ところでこのLHC、本書でも触れているように、かなり大規模なエネルギーを極小な領域に集中させるので、ミニ・ブラックホールを発生させられるらしい。え?そんなの発生させて大丈夫なの? と一瞬心配になるけれど、理論上はエネルギーを放出する「ホーキング放射」によって蒸発してしまう。
・・・はずなんだけれど。
米国でLHCの運用禁止を求める訴訟、ブラックホール生成実験は安全性が確認されていない(technobahn)
CERN、LHCの運用で地球が崩壊するというのはまったくナンセンス(technobahn)
こんな訴訟も起きているらしい。まあ、”ブラックホール”という言葉の持つ響きが怖いので、気持ちは判らないでもないけれど。それは杞憂と言うのが大勢の意見。
こんなお騒がせなLHCが本格稼動するのは今年の夏から。施設の規模もすごいけれど、秒間800万回にも達する衝突実験をして、15秒でDVD1枚分の実験データを生成と、出てくる実験結果の量も化け物じみた施設。
(別のデータでは、最終的には1.8GB/秒でデータを生成刷るようになる模様・・ホント化け物だ)
一体どんな結果が得られるのか、そして、その結果は、どんな世界観を示してくれるのか。ちょっとわくわくする。
非線形科学 蔵本由紀
「非線形科学」と一口に言っても、色々な分野があるわけで、あまり馴染みのないパターンの話、同期現象の話から、良く名前を聞くカオスや、ゆらぎの話まで。多くの例を挙げて説明しているけれど、売り文句どおり、数式はほとんどないので、数式アレルギーがあっても行ける本。
各章で、色々な例を挙げ、ミクロな世界の分析的な議論では見えない世界の姿を示してくれる。
たとえば、地球を流れる液体・気体が大小を問わず、一貫して従う法則。54ページのカウマン渦流の写真なんて、そういうものの存在をはっきりと示してくれる。川の流れに出来る渦と全く同じものが、気象衛星から写された写真にくっきり写っているなんて。
あるいは、振動する化学反応。普通、化学反応という言葉からイメージされるのは、A+B → Cの様な、一方的な変化だけれど、これが振動する、つまり勝手にA+BとCの間を行ったりきたりする反応があるという。その反応の描くパターンの写真は不思議で美しい。

また、著者の専門でもある、同期現象というのも面白い。
蛍の発光周期が一致したり、カエルの鳴き声の周期が一致したり、拍手の周期が一致したりするのは、生物がある程度意識・無意識で行う行為だからそれほど驚きはないけれど、壁に並べた振り子時計の周期が一致する、なんていう現象は、すごく面白い。一見無関係に見えるもの同士が間接的に影響を与えあって新しい周期を生み出す。世界の動きは、なんて不思議なんだろう。
人間の行動でも、無意識の働きによる同期現象に驚かされたのが、ロンドンの「ミレニアム・ブリッジ」の事例。普段思うよりも、我々は周囲に影響を与えあい、総体としての周期を持っている。なんとも不思議。
個々の部分を分析しても、それは部分の機能・動きが判るだけで、それが総体としてどういう動きをするのかはわからない。相互作用とフィードバック。それが、世界の振る舞いを考える上で欠かせない。そういうことか。
残念だった点。読者を引き込む材料の生かしかたが不十分な点。
たとえば、著者が、アーサー・T・ウィンフリの論文から強いインパクトを受けた話しについて、
彼の論文を読んで、私はまずその冒頭のパラグラフに魅了されました。固体物理学の外の世界についてはまだほとんど無知だった私にとっては、実にいきいきとした自然観がそこに提示されていたからです。
そう書いたら、ぜひその部分を意訳して紹介して欲しいと思ったのだけれど、残念ながら具体的な内容は書いてくれていない。「個人的な話」だから書くことを躊躇したのだと思うけれど、一般の読者を引き込むという目的には、著者が感じた「いきいきとした自然観」を伝えることは適ってるのではないだろうか。
あとは、「入門書」と銘打って、サラリーマンや主婦(夫)、高校生にも判るように日常語を使うようにしていながら、対象者の知識の前提をどう置いているのかが不明な点が気になる。
たとえば、説明の前提となる話について「・・・・について復習してみよう」という書き方をしているのが、「知っていて当然」というニュアンスを感じさせることがあり、微妙な抵抗感を感じさせる。
わかりやすい文章だけれど、科学の入門書であり、気軽に科学を楽しめる本ではない、ということか。
先の例もそうだけれど、数式を使わないところまで行ったのだから、もっと読みやすく、「ポピュラーサイエンス」と言っても問題ないレベルの構成まで踏み込んで欲しかったところ。
(この辺、対象読者について私が完全に誤解しているだけかもしれないが・・)
と、すこし不満はあるにせよ、多くの分野について、わかりやすく説明してくれる良い本であるのは確か。
「まえがき」を読むかぎり、これからもこういう取り組みを続けてく様なので、期待したい。
トンデモ仮説の世界―まだ9割の人がだまされている
ネコ好きの科学者? による、世の中に転がっている仮説、仮説、また仮説を軽いのりで調理した本。
科学系読み物と言っても、あまり難しく(真剣に)考えずに、楽しく読む本。
記述も独断と偏見に満ちていて、なかなか面白い。
最近、宇宙論で有名になってきたリサ・ランドール女史を評して。
みもふたもない(笑)じゃあ、どうしてリサ・ランドールさんだけが注目されるんです?
「君の言うとおり、ルックスがいい女性だからだろうな」
こんな感じで、まともそうな仮説から、怪しそうな仮説まで、ドクターTがズバズバと斬り捨てたり、斬り捨てられたり(助手に)。
宇宙論の話があるかと思えば、ヒトの祖先とオオカミの関係についての仮説があり、男性器の形状の仮説やら、地下都市伝説、はては陰陽五行説を取り上げてみたり。
他のエントリでも書いたけれど、科学の世界は、最初はすべて仮説。そのなかから、十分に研究をされたものが、ようやく事実として認められるようになる。中には、大して研究されていないのに、ノーベル賞をとってしまって反論が出たり、「ビタミンCが風邪に効く」なんて迷信として残ってたりするものもあるけれど。
ということで、この本に出ている怪しい仮説の数々も、数年たったら世界の常識になって・・・・

・・ないだろうなぁ。ほとんどは。
ところで、この本の中で、気になった記述。
「これは一つの試算なんだが、原発一基分(100万キロワット級)の電力を作るためには、東京の山手線の内側を全部、風力発電装置や太陽電池パネルで埋める必要があるんだ(もっと広い可能性もある)。
以下、別ソース。
ドイツと日本、再生可能エネルギーの“差”(ITmedia)
世界で最も再生可能エネルギーの利用が進んでいるのはドイツだ。風力発電や太陽光発電、バイオマスなどによる発電能力は、2500万キロワットを超えるという。ざっと原発25基分である。それに比べると、日本は700万キロワットほどに過ぎない。
うーん。ドイツは、”日本より面積が狭いのに”、そんなに広大な土地を風力発電や太陽電池で埋めていると?
確かに、数万基の風力発電装置が動いているのは確かなようだけれど、それにしたって、山手線の内側を全部、というのは大げさでは?
とまあ、数値を出されると突っ込みたくなってしまうけれど、定性的な話題としては、難しいことを考えず、ネタを軽く楽しめる本。
フェルマーの最終定理
数学者を358年間悩ませた、フェルマーの最終定理に関わるノンフィクション。2作目の『暗号解読』が素晴らしかった、サイモン・シンの第1作。
数学のノンフィクションは『ポアンカレ予想』でプチ挫折した後だったけれど、サイモン・シンの作品ということでようやく手を出してみた。結果、やっぱりこの人の本は読みやすいと納得。数式も少なくて読みやすいし、わかり易くて面白い。(『ポアンカレ〜』の著者の名誉のために書いておくと、トポロジーほど難しい話題じゃない、っていうのも大きいとは思うけれど)
このフェルマーという人物、なかなか性悪な数学者だったようで、
とはいえ、猜疑心が強くてつきあいの悪いこの天才には、人を困らせて喜ぶようなところがあった。そんな性格と秘密主義とがあいまって、彼がいざほかの数学者とやりとりをするとなると、ただ相手をからかうことだけがその目的となるのだった。
・・おい。
そんな困った人物でもあった彼の有名な走り書きのせいで、頭を悩ませ続けた数学者たちの物語。

科学ノンフィクションの例に漏れず、この作品も、関連する分野の歴史をたどって、関係する人たちのドラマを紡ぎだしている。
フェルマーの最終定理と関連の深いギリシアのピュタゴラスに始まり、フェルマーの同時代のオイラーや、数学界以外ではあまり知られていないものの、重大な貢献をした二人の日本人と、彼らに関わる悲劇の物語。若くして去ったフランスの天才、そして、フェルマーの最終定理の解法にたどり着いた、アンドリュー・ワイルズへと、物語は続く。
個々のエピソードがなかなか面白い。ピュタゴラスが教団を構えていたことは知っていたけれど、有限の数字で表現しきれない数(無理数)の存在を示した弟子を、ピュタゴラスが信奉する世界のあり方に反したものを示したからといって殺していたとは知らなかった。確かに、数の世界には神秘的ともいえる現象があり、世界が数で成り立っていると考えたくなる気持ちも、判らないでもない。本書でも取り上げられている、πの計算方法なんて、すごく不思議で美しい。
3.1415・・・という、一見何の規則性もない数を計算するために、こんな規則的な構造が出てくるなんて、世界はなんて不思議なんだろう。π=4x(1/1-1/3+1/5-1/7+1/9-1/11+・・・・・)
歴史の片隅に追いやられた、日本人研究者の功績の話も見逃せない。その日本人は、東京大学の谷山五郎と志村豊。当時全く関連性が認識されていなかった、モジューラと楕円方程式が関連づけられる、ということを主張した最初の研究者だという。実際に証明をしたわけではないから、貢献度がすごく高いというわけではないのは確かだけれど、もっと認められても良いのではないか。『大気の海』でのウィリアム・フェレルの件しかり、こういう、歴史に埋もれていく人たちの功績を再発見するのも、科学ノンフィクションの大切な役割だと思う。
この点、著者は、モジューラと楕円方程式のつながりを谷山=志村予想とはっきり書いており、好感が持てる。
多くの先人の積み重ねを受けて、最後に証明にたどり着いたワイルズを待っていたのは、完璧だと思っていた証明の穴と、メディアの大騒ぎ。メディアが意味もわからずに(?)大騒ぎする点は、『ポアンカレ予想』の時と一緒で、やっぱり変わらない。現実的な利用価値が低い純粋数学も、ニュースを求め続けるメディアの空騒ぎからは逃げられないし、証明に穴はつきもの。
でも、その穴を埋めるのに予想外に苦しみ、全てをあきらめかけた時に、問題解決のために浮かび上がってきたものが、何ともドラマチック。それはまるで、そこに至るために必要な道筋を、あらかじめ自分で引いていた様に。
数学という難しい世界でも、そこで活躍する生身の人間が織り成すドラマがある。それを楽しませてくれた。
やっぱり、サイモン・シンは当たりかな? 宇宙論の本もあるようで、読むのが楽しみだ。
環境・資源・エネルギー問題解決のための独創エネルギー工学
資源・エネルギーの不足、環境破壊という問題を解決するための、いろいろなテクノロジーについて書かれた本。
第1章 限界と危機―21世紀のエネルギー問題
第2章 膨大なる未利用エネルギーの活用―水力発電の復活
第3章 究極の自然利用エネルギー―バイオマス・エネルギー
第4章 非食料の草木からエネルギー―バイオメタノールは明日から使える
第5章 「エネルギー」・「環境」・「廃棄物処理」を統合―水熱化学で夢の循環システム
第6章 水熱化学で放射性廃棄物問題を解決―人工堆積岩と原子力発電
第7章 西澤独創技術で実現する―高効率な直流送電方式
第8章 東西、南北で電力貿易―世界をつなぐ地球パワーネット
あまり見かけないバイオ「メ」タノール(よく聞くのはバイオ「エ」タノール)の話や、原発の放射性廃棄物の新しい処理方法の話、そして、世界中を結ぶ、低損失な直流送電のネットワークの話と、情報が盛りだくさん。
読みやすいポピュラーサイエンス的な本ではないけれど、いろいろと面白い視点や、新しいテクノロジーが豊富なデータと共に書かれていて面白い。
エネルギー、環境問題については、今主流になっているものだけでなく、こういった色々な技術を考えていく必要があるんだろう。

個人的には、直流の送電方式についてあまり知らなかったので、この部分が新鮮だった。
電気抵抗の問題は付いて回るだろうけれど、国家間で電気の貿易ができるようになったら、効率的な発電ができるのは確か。すでにアメリカ・カナダ等の間では行われているというから、世の中は進んでいる。
もっとも、安全保障の問題で、電力貿易の範囲は限られそうだけれども。
ところで、この手の代替エネルギー関係で気になる記事が、最近ちらほら。
急成長する太陽エネルギー産業に潜む環境破壊 (CNET)
バイオ燃料製造の副産物による環境汚染:報道が相次ぐ(WEIRED VISION)
一件目は、太陽電池に使われるシリコンの生産のために、中国企業が有毒廃棄物を垂れ流しにしている、という話。
また中国か、という無かれ。二件目は、アメリカの”クリーン”エネルギー企業が、廃棄物を垂れ流したり、関連法規を破って罰金を受けている、という話。
アメリカではエネルギー関係のベンチャーが大量に立ち上がり、世界的にも投資が盛んなようだけれど、”化石燃料を使わない”という美名に誤魔化されず、しっかりと他の問題も考えて活動してもらいたいものだ。
上記の記事の様な毒性の強いものを廃棄している問題に限らず、”再生可能なエネルギー”を使っていても、それによる環境破壊は十分に考えられる。潮汐や海水温の差を使った発電システムは、どう考えても、周囲の生態系に影響をあたえるだろうし、二酸化炭素の吸収量を増やすために、海中のプランクトンの量を増やそうとするのも(漁獲には良いかもしれないが)そのままの環境を変えてしまうことには変わりない。
バイオメタノールの原料を育てるために、元々の森を伐採する必要も出てくるだろう。
人と自然との共生は、本当に難しい。
もっとも、人は自然と”共生”などできない生物であり、都合の良いように自然を”改変”するしかないのかもしれないけれど。


