その数学が戦略を決める イアン・エアーズ
大量のデータを計算にかけることにより、これまでの専門家を超える分析を行って適切な戦略を導く「絶対計算者」たちの世界を書いた本。
序章 絶対計算者たちの台頭
第1章 あなたに変わって考えてくれるのは?
第2章 コイン投げで独自データを作ろう
第3章 確率に頼る政府
第4章 医師は「根拠に基づく医療」にどう対応すべきか
第5章 専門家vs.絶対計算
第6章 なぜいま絶対計算の波が起こっているのか?
第7章 それってこわくない?
第8章 直感と専門性の未来
ワインの専門化が、単純な数学モデルに勝てなかった話に始まり、医療、教育、映画と、色々な世界での「絶対計算者」達の活躍と、彼らが生まれてきた背景、これからのあり方について書かれている。
”数学が”とタイトルに入っているけれど、数学的な話はゼロで、判りやすい説明に徹していて、読みやすくて面白い。
専門家が実は無能な例として、「
ファンドマネージャーがでたらめに選んだ銘柄からなるファンドに勝てない」なんていう話は昔から言われていることだけれど、この本では、多くの分野において、人間の専門家よりも、コンピュータによるデータ解析モデルが示す分析のほうが正しくなるという例を多く挙げている。

一番衝撃的だったのは、教育分野に冷徹な分析を導入した、「ダイレクト・インストラクション」の話(7章)。
教師の創意工夫、熱意など関係なく、決められたメソッドに従って決められた授業を行うこの方式が、非常に高い成果を上げているという事実。
ここでも、今までの専門家の努力や、熱意あるいは「子供たちに関するロマンチックな思い込み」とはかかわり無く、冷徹な計算によって求まった物の方が高い成果を上げるという事実がある。たしかに「それってこわくない?」な世界だ。
想像がつく事だけれど、大いに反発をまねてあまり普及はしていないらしい。
しかし、成果が上がるのが事実であれば、やがては少しずつ普及していくんだろう。
知識が豊富なだけの「専門家」では、コンピュータの分析にはかなわない、そういうことが、ほぼ一般的に言えてしまうらしい。
確かに、人間の分析、予測には各種のバイアスがかかるので、”モデルが正しければ”余計なバイアスがかからない、コンピュータの分析のほうが正確だ。
残念ながら、今まで専門知識にあぐらを書いていた専門家には、明かるい未来はなさそうだ。
冷たいようだが、専門家は今までのありかたに「甘えるな」ということだろう。今まで、人間が知ったかぶりをして専門家のふりをしてきた世界も、どんどんコンピュータが進出してくる。
これからの専門家は、本書が述べているように(まだ)コンピュータには出来ない、新しいモデルの構築や直感的な判断によって身を立てていくことになるのだろう。
いずれは、データマイニングの技術が進歩して、人間の直感もコンピュータが凌駕するようになるのだろうか。その時、我々は、まだコンピュータが追いつけない領域に向けて、どのように思考を発展させればよいのだろうか。。
まあ、そんな深刻な未来についての考えはともかく、世の中を良くしていくために、人間の曖昧な思考にたよらずに、データ分析がどんどん活用されるようになっている。
そんな世の中の流れを知ることができる本。