生物と無生物のあいだ 福岡伸一
DNAから特定の役割を持つ遺伝子を取り除いたら、当然問題が起きるに違いない。
でも、実際には何の問題も起きないことがある。
それは一体何故か?
生命のミクロの世界、科学者たちの世界を判りやすく描いた作品。
某所の書評のおかげで、Amazonで結構売れているらしい。
確かに面白い。
野口英世の実像の話。
DNAの二重螺旋構造の解明に関わる疑惑。
なぜ、生命がある程度の大きさを持っているのか。
細胞内部で起きる、ものすごく巧妙なプロセス。
そして、冒頭に書いた、特定の役割を持つ遺伝子を取り除いた(「叩き出(ノックアウト)した)際の話。
生物や科学に関する興味深い話が次々と展開されて、読んでいて全く飽きない。

特に、筆者が実際に研究していた、GP2と呼ばれるタンパク質の振る舞いから細胞内部での酵素の精製・分泌プロセスに関する研究から、遺伝子をノックアウトされた場合に起きる現象が、実際の現場の科学者が経験した臨場感を感じさせて面白い。
細胞の内部に外部を持っていたり(これは我々多細胞生物の構造―体の中心に消化管という外部を持っている―でもある)、欠落した要素を他の要素で補ったりする生命のあまりの巧妙さに、思わず生命は意図的にデザインされたものではないのか?などという
ID説信者になりたくなってしまう。
もっとも、生命には明らかに使われていない痕跡器官や、過去の歴史を引きずっているだけの不合理な構造もあり、生命の発生は偶発的な事象の積み重ねとしか思えない要素が多いので、ちょっと知っていれば一線を越えずに済む。
(この辺の話は、
「星を継ぐもの」の8章でダンチェッカーも言っている)
しかし、今の様な構造を作るために、一体どれだけの試行錯誤が繰り返されたのだろうか。その気が遠くなりそうな遠大な過程に思いを馳せると、生命の持つ不思議さに圧倒されそうになる。
まして、動的平衡なんて複雑な構造を持つものを、人の手で作り出すことの困難さときたら。
いつか人は、生命の精巧さに匹敵するものを創り出すことが出来るのだろうか。
生命が持つ奥の深さを垣間見せてくれる本。
読んでみて損は無い。